聖書各巻緒論(16)
説 教 題:「エルサレム城壁の再建」      井上義実師
聖書箇所:ネヘミヤ記2:4~18

 エズラ記に続いて各巻緒論に戻ります。エズラ記、ネヘミヤ記、エステル記はユダヤの民がバビロン捕囚を解かれても、なおペルシャ帝国の支配の下での話です。ペルシャ帝国、バビロンの異邦の地、異教の地で支配を受ける中で、それぞれの信仰の戦いが主題となります。

Ⅰ.基本的なことがら

●著者:エズラ記とネヘミヤ記はエズラが記しましたとのことは、両書を一つに数えていたユダヤ人の伝承にあります。改めて資料に当たりつつ、エズラ記はエズラがネヘミヤ記はネヘミヤが記したと考えます(訂正)。
●執筆年代:アルタクセルクセス1世(アルタシャスタ:ヘブル語標記、口語訳)の第20年から話は始まります(前445年)。ネヘミヤはエルサレムでの城壁再建後、一度ペルシャに戻り、再度エルサレムに帰還し、この書を記しました(前430年頃)。
●大区分: 1-2章  エルサレムの窮状、ネヘミヤの帰還
     3-13章 城壁の工事と完成。律法朗読と告白。

Ⅱ.聖書箇所のメッセージ:ネヘミヤ記2:4~18

 ネヘミヤは王宮で献酌官(1:11、口語訳では給仕役)でした。毒殺もよくあったことですから、王からの絶対の信頼がないと任ぜられません。ネヘミヤは兄弟ハナニから、城壁は崩され、門は焼かれているというエルサレムの荒廃を聞きました(1:3)。ネヘミヤは大いに嘆き悲しみ、心を注ぎ出した祈りの中にありました。ネヘミヤの悲しみの様子は王の心に止まります。ネヘミヤは王に問われ、祈りつつ、エルサレムの城壁の再建を願い出ました。エズラの時代、キュロス王の心を動かされた神様は、アルタクセルクセス王の心を動かされました。ネヘミヤは王から通行許可を得、城壁の再建資材も確保しました。ネヘミヤはユダの総督に任命されたのです(5:14)。
 この時代に、エズラは律法の学者、ネヘミヤは総督、エステルは王妃とそれぞれの立場で神様に仕えました。エズラに、ネヘミヤに、エステルに、困難に立ち向かいながら、神様に寄り頼み、自分の危険を顧みずに、神様に懸けていく勇気を見ます。今ここにあるという、時代の狭間に立って行くことへの責任感があります。神様はそこに働かれ、神様の大きな御業を表されていきました。
 ネヘミヤの行動は大胆であり、周到です。エルサレムの城壁の夜間の視察も、敵対者に感づかれないように注意を払ってのことです。満を持して、ネヘミヤの「さあ再建にとりかかろう」(18節)の言葉に皆が立ち上がっていきます。

Ⅲ.全体のメッセージ:

 ユダヤの民は、心を一つにして、懸命に働き工事を進めていきました。しかし、ホロン人サンバラテ、アンモン人トビヤ、アラブ人ゲシェムといった敵対者たちから、大きな反感を買い、彼らの侮辱を受けました。彼らは工事を止めさせる陰謀を企て、武力で止めさせようとしたのです。ユダヤの民は、突然の攻撃に備えて、昼夜見張りを立て、片手に武器を持ち、片手で工事を進めました。ユダヤの同族の間で争いがあり、生活の苦労も起こってきましたが、ネヘミヤは公平な、無私の取り扱いをして人々の心をつなぎ止めていきます。妨害を続けながら、正面からは叶わないと見た敵対者は、一見穏やかな言葉を使ったり、脅しをかけたりしました。
 様々な敵対者の妨害を受けながらも、エルサレムの城壁はわずか52日間で完成しました(6:15)。この大きな神様の恵みの時に、民は一つに集まり、エズラは律法を朗読しました(8:1)。民の内に感謝と同時に、悔い改めの心が起こりました。信仰の復興は、悲しみ、痛みを越えて神様を喜ぶことに向けられていきました。
 「さらに、彼は彼らに言った。『行って、ごちそうを食べ、甘いぶどう酒を飲みなさい。何も用意できなかった人には食べ物を贈りなさい。今日は、私たちの主にとって聖なる日である。悲しんではならない。主を喜ぶことは、あなたがたの力だからだ。』レビ人たちも、民全体を静めながら言った。『静まりなさい。今日は聖なる日だから。悲しんではならない。』」(8:10~11)。
 ネヘミヤはユダヤの総督として12年間、現地で務めました。その後、一旦ペルシャに帰り、エルサレムに戻ってきています(13:6~7)。この間、ユダヤの民は神様の前から離れ、悪しきことを行っていました。エルサレムに戻ったネヘミヤは、もう一度ユダヤの民を神様に引き戻す働きをしました。

 私たちを取り巻く悪の力は大きく、私たちを脅かします。ネヘミヤ記の最後の言葉は「私の神よ、どうか私を覚えて、いつくしんでください。」(13:31)と閉じられています。ネヘミヤはどんな困難が起ってきても、先ず私の神よと祈り求めている。私たちはネヘミヤのように、常に神様に向かって目を上げ、神様に立ち帰り、御言によって歩みを確かにする者でありましょう。