聖書各巻緒論(9)
説 教 題:「転換点で主に仕える」      井上義実師
聖書箇所:サムエル記第一3:1~14

 皆様の聖書通読の助けとして聖書各巻の緒論を取り上げてきました。今回で第9回となりました。歴史書が続きますが、ヨシュア記士師記ルツ記の次がサムエル記となります。イスラエルの民は、モーセに率いられたエジプトからの出発、続いての荒野での40年の歩みになります。荒野の旅の後、ヨシュア記ではヨルダン川を渡り、神様の約束の地であるカナンを征服しました。イスラエル12部族が別れて住む、部族連合体となりました。士師記の時代の始まりですが、カナン先住民の風習・宗教に惑わされて神様を軽んじ、他からの侵略が絶え間なかった混乱の時代も400年が過ぎようとしていました。神様はこの時、次の時代を備えられ、導かれていました。

Ⅰ.基本的なことがら


●著者:サムエル記はサムエルが記したという伝承があります。サムエルが最初の重要な主人公ですが、サムエルは途中で召されます(25:1)。最初の部分はサムエルが記したことは考えられますが、サムエルの召天後はサムエル以後の人物と考えた方が良いでしょう。

●執筆年代:年代はサムエルの誕生(B.C1060頃)から、ダビデの晩年(B.C970年頃)までの期間となります。執筆された年代は、本書を記した著者同様に余りよく分らないと言えるでしょう。

●大区分:1-7章 エリ、サムエルによる神政政治
     8-31章 サウルの王位、治世

Ⅱ.聖書箇所のメッセージ:「サムエルの選び」3:1~14


 神様は士師(士師「漢語」=さばきつかさ)記の時代、神様を顧みない、自分勝手なイスラエルの民を無視され、無関係を決め込まれていたわけではありません。神様は状況を見、時を待ち、人を選び、備えておられたのです。

 サムエル記冒頭に出てくるエルカナの妻ハンナには子がなく、子どもを与えてほしいという痛切なハンナの祈りを神様は聞き届けられました。サムエルは、ハンナが祈ったように、神様の働きに献げられた者として生まれました。シロの祭司エリに幼いサムエルは預けられ、幼年時代を過ごします。時は、イスラエルにとって正しく風前の灯の時期であったのです(3:3)。

 神様は、幼いサムエルに国の将来に関わる大切な語りかけをなされました(3:4~)。神様はサムエルに期待され、その通りにサムエルは神様の働き人として成長していきます。サムエルは最後の士師としてイスラエルをさばき、治めました(7:15)。祭司としての働きをなしました(7:17)。そして、全イスラエルの預言者として、神様のメッセージを伝えました(3:20)。サムエルのリーダーシップは政治家や軍人、裁判官という世俗的なものではありません。実際の祭ごとに携わっていましたが、何よりも霊的な感化、霊的な権威にあったのです(9:6)。

Ⅲ.基本的なメッセージ:「神政から王政への移行」


 イスラエルの民は、士師が神様と民との間を執り成し、国を治める神政政治を望まなくなりました。士師記にあるように、イスラエルが神政政治で治めきれなくなったことは事実でしょう。イスラエルの民は、周辺諸国のように王を立てるようにサムエルに求めました(8:6-22)。

 サムエルは人々の考えが人間的な思いから出たことは良く分かっていました。神様も世俗的な王が立てられることを快く思われませんでしたが、イスラエルの民の求めを認められました。神様が選ばれたのは、ベニヤミン人キシュの息子サウルです。サウルがイスラエルの初代の王として立てられました(9章)。

 サムエルは政治の形が変わっても、イスラエルの民が、神様の御心を知ることができるように預言者を養成しました(19:20ラマ、以後ベテル、エリコ、ギルガルにも同じ働きがなされていきます)。今後の王政では、預言者の働きがより重要となり、その基礎をサムエルが造ったのです。

 神様は大きな転換点に霊的な指導者であるサムエルを備え、王となるサウルを備えておられました。転換点は、人間の側では危機でしょうが、神様の側では既に準備はなされているのです。

 神様は変わることのない不変の御方です。神様は永遠に存在しておられる御方です。この御方が時を備え、歴史を導かれています。聖書が創造に始まって、永遠の完成に至る全世界の歴史書であることからも解ります。地上のものは移り変わっていきますが、決して変わることのない神様が私たちを導いて下さっていることをしっかりと受け止めながら、神様の内を歩んでいきましょう。