聖書各巻緒論(13)
説 教 題:「ダビデの祈り」   井上義実師
聖書箇所:歴代誌第一29:10~20

 聖書各巻の緒論は歴代誌第一で第13回となりました。今までサムエル記、列王記と続き、統一王国時代、分裂王国時代、南北両王国の滅亡、バビロン捕囚と言う歴史を見てきました。同時代である歴代誌は、列王記とは視点がどう違うのだろうか。冒頭は、人類の祖先アダムからのイスラエルの系図となります。歴代誌は、王国時代の記録ですが、時代を超えた神様の摂理、支配に目を向けさせようとしています。

 歴代誌第一はダビデについて、歴代誌第二はソロモンについて多く記します。ダビデ、ソロモン両王のサムエル記・列王記には記されなかった姿が描かれています。また、北王国イスラエルの記述は最小限に止めているかのようであり、南王国ユダの記述が中心になることも特色としてあります。南王国の歴史につながるダビデの裔からメシアが現れることへの待望であると言えます。

Ⅰ.基本的なことがら

●著者:伝承としてはエズラの名が上がります。歴代誌とエズラ記のつながりは古来認められてきました。
歴代誌の結びの言葉は、エズラ記の序言の言葉とほぼ一致することも両者の関係を示しています。
●執筆年代:エズラということであれば前5世紀後半となります(エズラのイスラエル帰還が、前458年)。
●大区分:1-9章 系図:アダムからヤコブ、ヤコブからダビデの子孫、諸部族の系図と歴史。
     10-29章 ダビデの治世、神殿建設の準備。     

Ⅱ.基本的なメッセージ:「礼拝」

 サムエル記で描かれているダビデの姿ではなく、歴代誌の特色はダビデを礼拝者として描いています。自分は許されなかったが、次代ソロモンの神殿建設の準備のために「全力を尽くし」(29:2)ました。金銀、宝石、大理石を始め貴重な品々を集め、木材・鉄・銅など建築資材を入念に準備したことが描かれています。

 次の歴代誌第二では、ソロモンのさまざまな業績は列王記に譲って、神殿建設を行い、神殿を奉献した礼拝者として描かれています。歴代誌は、祭司エズラが記したと言われますが、他では記されていない神殿で仕える祭司、レビ人の記述も多くあり、真の神様への礼拝を中心にしています。

Ⅲ.聖書箇所のメッセージ:「ダビデの祈り」29:10~20

 歴代誌は礼拝で貫かれています。歴戦の勇士、王国の指導者としてのダビデの姿は本書全体から見れば少ないのです。バテ・シェバとの罪、アブサロムの反乱等、失敗や過ちの中でダビデが葛藤した姿もわずかです。それに代わって、ダビデは神の箱をキルヤテ・エアリムからエルサレムに迎え入れたことが詳しく記されます。ダビデは許されませんでしたが、次代のソロモンが、神殿建設を果たせるように準備した仕え人としての姿があります。自らを低くし、自分ではなくソロモンが完成に導くことをダビデは喜びとしています。

 聖書全体を考えて見れば、神様の導かれる歴史は人類の祖先アダムから始まり、新天新地が現わされる終わりの日の完成を目指してつながっています。決して、一人だけの業ではありません。次から次に多くの人が関わっていきます。自分が一生懸命立ち働くことと同様に、それ以上かも知れませんが、次の世代への継承は大事なことであるということを、ダビデの姿から知ることができます。

 神殿建設の準備を終えた、ダビデの感謝の祈りがここに記されています。詩篇150篇中ダビデの作と題されている詩篇が73篇あるように、ダビデは優れた詩人でありました。ダビデの祈りは格調高いものです。神様の偉大さへの賛美がささげられ(10-13節)、ダビデ自身の謙り(14-16節)、純粋な真直ぐな心を持つことの大切さ(17-18節)、我が子ソロモンとイスラエルの会衆への祝福(19-20節)が祈られています。この祈りを聞いて、全会衆は主の御前に心を一つにしてひれ伏すのです。

 ダビデは、戦いに次ぐ戦いを戦い抜き、エルサレムに首都を定め、統一王国の政治を行い、建国に努めました。その最後に当たって、ダビデの信仰の表明としての神殿建設の準備は、ダビデの白眉となります。